シカゴにChicago Music Exchangeという楽器店がある。ここのコンテンツ・インバウンドマーケティングとEコマースが上手く構成されているので、今日は取り上げて解説をしたい。
コンテンツ・インバウンドマーケティングとEコマースを組み合わせた手法といえば真っ先に浮かぶのが、ゲイリー・ヴェイナチャック(Gary Vaynerchuk)のWine Library TVとWine Libraryだ。
Chicago Music Exchangeも、ブログや動画を活用しているという点では近いものがあるが、ゲイリーの手法とは違った部分がいくつもあり参考になるだろう。
Chicago Music Exchangeはどんな楽器店なのか
まず、どのような楽器店なのかイメージできるように、ショールームツアーの動画を見てみよう。サイトでも確認できるがこのように高いクオリティのビデオで楽しませてくれるのがChicago Music Exchangeの特徴の一つでもある。ヴィンテージ・ギターを求める層にアピールし、ギターマニアならば一度行ってみたいと思わせてくれる。
Showroom TourChicago Music Exchangeは、比較的規模が大きい楽器店だが、スタッフの構成がユニークだ。
ギターなど各楽器のスペシャリストなどに加えて、フォトグラファー、コピーライターなどもいる。
ローカルにありながら、インバウンドマーケティングとEコマースで広く売ることに力を入れていることがわかる。
このように一地域のブランドが積極的に売上拡大を目指すならば、店舗を増やすだけでなくEコマースによる商圏拡大についてもぜひ検討したい。店舗を増やすよりも投資リスクが小さく、売上機会の伸びしろは大きい。ただし、ウェブマーケティングの設計および運営体制の構築が不十分だと「何年やっても売上が上がらない。」という状態に陥るので、早めに信頼できるウェブディレクター、ウェブマーケターと組むほうが賢明だろう。
どんなに初期投資が低くても、時間をムダに費やすようでは、ウェブサイトもウェブマーケティングも意味を成さない。
Chicago Music Exchangeのコンテンツ・インバウンドマーケティング
サイト内部の主なインバウンドマーケティングコンテンツとしては、商品個別ページ、ブログ、セレブリティ、ビデオギャラリーなどがある。それぞれ説明していこう。
商品個別ページ
商品個別ページにはその商品の詳細、購入ボタン、問い合わせボタンの他に、Facebook、Twitter、Google+のシェアボタン、そしてPinterestのPin itボタンがある。これによりTwitterやFacebookなどでシェアされるのはもちろんのこと、お気に入りの楽器としてPinterest上で画像がシェアされ、そこからのトラフィックを獲得できるようになっている。楽器はPinterestとの相性はかなりいいはずだ。
もちろん、メーカー名カテゴリーページや、商品一つひとつの詳細ページは、ロングテールのトラフィックを獲得できるようにURLに商品名を埋め込んだり、タイトルタグやページのデザインもきっちりと構成されている。ぜひ各ページを確認してほしい。
Gibson Montana SJ-200 Standard Antique Natural(商品詳細ページ例)
Gibson (メーカー名で絞り込みしたページ例)
ブログ
ブログでは、ギターやエフェクター、ドラムなどの試奏動画や解説があり、丁寧に楽器を伝えている。そして最後は「商品を確認」ボタンがあり、ネットショップへと誘導されている。
YouTube
YouTubeは、取り扱っているビンテージギターなどを解説したものを中心にインストアライブなどのビデオが用意されている。
商品と顧客ターゲットに合ったコンテンツになっているのがポイントだ。
ビンテージギターを解説した動画を例として1点取り上げておく。
Chicago Music Exchange YouTube ChannelChicago Music Exchangeのリード獲得キャンペーン
さて、インバウンドマーケティングといえば、リードを獲得(Lead Generation)し、こちらからコンタクト可能な状態にして、リードに合った情報を提供しながら顧客へと育成していくことがポイントである。これをリードナーチャリング(Lead Nurturing)と呼ぶ。リード獲得とリードナーチャリングを行うと、行わなかった場合よりも数倍の顧客が生まれるので、インバウンドマーケティングを実行するなら、ぜひリード獲得とリードナーチャリングはしっかり行うようにしたい。
Giveawayキャンペーン
Chicago Music Exchangeは2012年当時、リード獲得の手法として 「究極のビンテージモノ、あげちゃうぞ!(Ultimate Vintage Gear Giveaway)」キャンペーンを行なってた。2012年6月25日から9月30日の間に応募した人の中から抽選で6名に、ギターやアンプなどが当たるキャンペーンだ。
以下の画像はキャンペーンのリード獲得フォームが設置されているページだ。動画でキャンペーンをコミカルに解説している。この動画があるおかげで、ページを複数用意したり、ムダに縦長なデザインにしなくても済んでいる。リード獲得用ランディングページのいい見本だ。
Ultimate Vintage Gear Giveaway
現在は、Giveawayというページが作られており、メールアドレスを登録することで定期的にプレゼントへの抽選権が得られるようになっている。100リフ ― キャンペーンを支えるもうひとつの動画
また、筆者がこのChicago Music Exchangeを知ったきっかけが100リフという動画で、2012年の動画で、このためのページも開設されている。
リフ(Riffs)とは、ギターの曲の中で繰り返される印象的なパターンフレーズのことをいうが、色々な楽曲のリフを100曲連続で休むことなく1テイクで弾ききるというかなり難易度が高い演奏をビデオでアップしている。ギターを弾く人であれば、このビデオには釘付けになるだろう。
次の画像は2012年にこの100リフのページをキャプチャしたものだが、「究極のビンテージモノ、あげちゃうぞ!(Ultimate Vintage Gear Giveaway)」キャンペーンページへの大きなリンクバナーを確認できる。キャンペーンページへきっちりと導線引きされており、リード獲得のために100リフのビデオを活用していた。YouTubeの動画からもきっちりとキャンペーンページへのリンクが張られていてかなりのリードを獲得したのは予想できる。
ちなみにこの100リフの動画はキャンペーン以前の2012年6月4日にアップされており、2020年3月時点で視聴回数は3,700万回を超えている。
まとめ
今回のChicago Music Exchangeはウェブサイトおよびインバウンドマーケティングが非常に高いレベルでデザイン・設計されていたので取り上げた。「日常のブログを中心としたインバウンドマーケティング」、「距離を越えさせるための写真・動画による情報の見せ方」などがトラフィック獲得とユーザーエンゲージメント・絆の構築を実現している。また一方で、短期間のリード獲得キャンペーンのためにビデオバイラルマーケティングにチャレンジするという意欲的なウェブマーケティングだ。その他に、リードを獲得するためにGoogleアドワーズのリマーケティングでキャンペーンを宣伝しているのも確認している。
Chicago Music Exchangeは、コンテンツ・インバウンドマーケティングとEコマースの組み合わせ、そしてトータルなウェブマーケティングの事例として非常にいい題材なので、自分でもサイトやマーケティングの手法について確認してほしい。Webサイトの制作には「Webサイト制作・リニューアルを成功させる112のチェックリスト」が役に立つだろう。
また、2012年当時はどちらかというとリード獲得を重視したインバウンドマーケティング的であったのに対し、今回あらためて確認したところコンテンツマーケティングの要素が大きくなっていることに気づいた。それは、クローズドなメールによるリードのフォロー・ナーチャリングよりも、よりオープンにYouTubeなどにコンテンツをアップしていくことを重視した結果なのかもしれない。ユーザーのYouTube視聴の習慣化と28.7万人の登録者を考えれば、10年前とはWebマーケティングのやり方も変わるということだろう。