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Appleのジョナサン·アイブが語る「アイデアが形になるプロセスとチームワークと今後のApple」

前回、Appleのジョナサン·アイブが語る「英国と自身とAppleのデザイン」というタイトルで、The Telegraphのジョナサン・アイブインタビューの前編を取り上げたが、今回は後半部分をお届けする。

彼が、アイデアが形になるプロセスやAppleにおけるチームワークなどを具体的に話しており、非常に価値のある内容となっている。早速読み進めてほしい。

ジョナサン・アイブ インタビュー:シンプルであることは簡単ではない。

「私の仕事は、シンプルであることを徹底しています」と、Apple社のデザイン責任者ジョナサン・アイブ氏はテレグラフ紙のインタビューでこう述べた。

「デザインは、非常に意味のあることであり、同時に全く意味のないことでもあります。私達がデザインに特化して語ることはありません。アイデアを開発し製品を作るための話をします。」と、ロンドン生まれのApple社のデザイン責任者であるジョナサン·アイブ氏は語る。

1998年に彼がデザインしたiMacは、破産寸前の状態だった当時のApple社に革命を起こした。さらに2001年にリリースされたiPodは、レコード業界の形態を根本から変えた。2007年に発売されたiPhoneも、携帯電話業界に同様の変革をもたらした。2010年にデビューしたiPadは、コンピューターのまったく新しいカテゴリーを作り出し業界をリードしている。

ジョナサン・アイブ氏の功績は、過大評価ができないほど大きなものだ。

「デザインや開発で結果を残すのは、非常に大変な作業です。私達の目標は、非常に複雑な内容を穏やかでシンプルな製品として世に送り出し、その内容の解決策や辿ってきた道程、その問題自体に気付かれないようにすることです。」

シンプルさ、ということがアイブ氏との会話で頻繁に出てくるが、その言葉に特別な意味があるのを強調したいがために繰り返されている。

「シンプルさとは、散らかっていない状態のことを言うのではありません。シンプルさとは、オブジェクトや製品の目的と場所を示す必然性を指すのです。散らかっていない状態とは、ただデザインのすっきりした製品、ということです。私達の製品はそれほど単純ではありません。」

「シンプルさを追求するには、プロセスのあらゆる部分に浸透する必要があります。それが基本の基本と言えます。」

ハードウェアのシンプリシティは、ソフトウェアのそれとは必ずしも一致しない、というのもiPad、iPhoneとiPod touch用のオペレーティングシステムiOSの浮上により、シンプリシティが「スキューモーフィズム」によって示されるからである。したがって、Apple社のMacとiOSのカレンダーにはフェイクレザーの質感があり、フェイクステッチまで付いている。

※スキューモーフィズムとは、ソフトウェアが、実世界のものと同じような質感を持っていたり、動作することを指している。例えば、iPadのiCalにおける「ページめくり」などもスキューモーフィズムだ。

フェイクステッチについて私が言及すると、アイブ氏はひるんだ様子を見せたが、それは嫌なものに対するジェスチャーというよりは、同情のジェスチャーであった。少なくとも、そう私は感じた。アイブ氏はその問題についてあまり深く追求されないように、「私の焦点は他のチームとプロジェクト構想について話し合った上でハードウェアを開発することであり、それが私達の焦点であり責任であります。あなたがおっしゃるような要素については、私はあまり関わりがないのです。」と、遠回しに問題から遠ざかった。

アイブ氏は、多くの優れた製品を生み出してきたので、アイブ氏がその同僚と共に何年にも及びそれらの製作を手がけてきたという考えを当然のことと思ったとしても許されるだろう。しかし、彼はプロセスに対して畏敬の念を抱いたままだ。「一歩下がって客観的に眺めて見ると、今ここに私があなたと座っていること自体がすごいことだなと思います。そしてここにアイデアはありません。アイデアは存在しないのです。」

「そして、ほとんど形を成していない発想を突然突きつけられて、その次にはもう形が存在するのです。そしてその一時的で壊れやすい発想は、大抵一時的な議論へと発展し、言葉でもって実体のあるものにしようとする。一般的にここで起こっていることは、何人かの限定的な話し合いです。」

「そしてその壊れやすいアイデアを、今度は図で描いて発展させていこうとする。それから、最初にオブジェクトを完成させ、アイデアに形と空間をもたらした時点で素晴らしいことが起こります。これらのプロセスの中で、ここが最もドラマチックな場面であり、突然いろんな人達と関わりを持ち始めます。集中をもたらし、人々に刺激を与え、そしてそれはものすごいパワーを持っています。」

アイブ氏を理解するには、彼が持つ信念への真剣さと情熱を理解する必要がある。それは言葉だけの空虚なものではない。彼が生涯を捧げて取り組んでいることなのだ。彼は、過去20年間を、彼とそのチームが解決しようとしてきた問題の数々を基準にして考える傾向がある、と述べた。

アイデアの開発において、アイブ氏とそのチームは、長期の新素材研究や、全く新しいプロセスの創造、そして他の業界からのエキスパートとのコラボレーションでその時点での問題に対するソリューションサーチ等を頻繁に行う。例えば、オリジナルのiMacを開発するに当たったときは、アイブ氏とそのチームは、菓子業界とコンピューターのキャンディカラーを製作する際の透過性レベルを維持する方法についての議論を行った。

卓越したデザインの追求でアイブ氏がやらなかったことのひとつは、武士の刀づくり見学のための日本旅行だ。オンラインでの逸話では、刀が作られるのを見ることがiPad 2のインスピレーションを得る手段のひとつであったと言われているが、アイブ氏自身は、それは行っていないと述べている。

この逸話は信じられる、というのも、アイブ氏とApple社は細部へのこだわりに対して熱狂的なことで有名だからだ。「ときには、問題とじっくり向き合い、時間とお金を投資し、機能的な要件を超えて細部の研究を行います。これを行うのは、そうすることが正しいと信じるからです。」

「それは『引出しの奥を完成させる』ようなものです。そのような細部のこだわりを人が見分けることはない、と言うかも知れませんが、どのような合理的な意味を持ってしても、どうしてそのこだわりが重要であるかを説明するのは非常に難しいですが、ともかく重要なのです。これは利用者への心遣いであるという私達の考えを表すものであるからです。これは市民に対する私達の責任だと考えています。だから重要であり、必然なのです。何故かを説明するのは難しいですが。」

Apple社を世界最大規模にまで成長させ素晴らしい成功をもたらした、製品に染み込ませる細部へのこだわりと価値観を持ってすれば、この企業が決して失敗することはない、と思えてくる。

2000年にリリースされたPower Mac G4 Cubeのような失敗製品も過去にはあるが、これはデザインは斬新でありながら大きなセールスには結びつかなかった。また2007年に最初にリリースされたApple TVは、人々の「趣味」程度にとどまった。しかしアイブ氏によると、企業の大抵の失敗は裏舞台に隠されているという。

「プログラムの大部分は、実際に問題解決ができるかどうかが判らないのです。大部分は、そのアイデアを諦めるべきかどうかが判りません。これは、iPod, iPhoneやiPadでも同じことです。」

「プログラムに取り組む時がきて、ソリューションも解決した後期プロジェクトの段階で、沈み込んだような感覚が現れます。というのも、数値を明確にするのに少々過剰に声高になるからです。そして、数値を明確にしたり周りの人たちを説得するということ自体が、この製品が十分魅力的でない、ということを示唆するからです。しばしば、私達は自分に正直になって『これは多分製品としては十分じゃないから中止すべきだ』と言わねばならないときがあり、これは非常に難しいことなのです。」

前述のパラグラフで、アイブ氏の表現が一人称複数形から三人称に変わった部分は、何か重要性が秘められているのかも知れない。ひとつ確実に言えることは、アイブ氏は仕事の話をするときは、いつも「私達」という表現を「私」の代わりに使う、ということだ。

アイブ氏は、プロジェクトを中止するタイミングを決めるのは、「私の重要任務」であると言う。Apple社にはそれぞれの専門に集中する人々に対する強い信念がある、とアイブ氏は述べたが、製品が開発されている時点でのプロセスは極めて流動的なものである。「製品を開発するときは皆が一緒に座っているので、誰が電気技師か、誰が機械技師か、また誰が産業デザイナーかを見極めるのが難しくなります。」

チームワークはプロセスに於ける重要な部分である。「Apple社で働くことで特に価値があるのは、デザインチームの多くのスタッフが15年以上一緒に働いているということで、グループとして学び成長していくことはとても素晴らしいことです。その基本的部分はグループが一丸となって失敗を経験することです。あらゆるアイデアを試して失敗してみなければ、何も学ぶことはできません。」

昨年は、Apple社にとって重要な変革の年だった。前最高責任者で共同創設者スティーブ・ジョブズ氏死去のわずか1ヶ月前に新最高責任者としてティム・クック氏が就任した。ジョブズ氏の不在による必然的な企業衰退が一部のアナリストによって示唆された。

期待どおり、アイブ氏はそれについて同意しなかった。「私たちは2年前、5年前、10年前と全く同じ方法で製品を開発しています。数人の人間だけが同じ方法で働いているわけではありません。企業の大部分の人間が同じ方法で働いているのです。」

このチームがApple社を成功させている、とアイブ氏は考えている。「チームが一緒に学び、難しい問題解決に当たっている、という方法にはまっている感じです。そしてそれに満足を得てもいます。飛行機に乗って機内の大部分の人たちが、自分が頑張って作り上げてきたものを利用しているとわかるのは、嬉しいものです。これこそが素晴らしい報酬です。」

まとめ

私にとって一番興味深かったのは発想とアイデアが形になっていくプロセスをアイブが語っている部分だった。これは何かを日々創造している人たちに共通するプロセスでもあるがこれだけ具体的にアイブが語っているということに大きな価値があるのではないだろうか。

「発想」を少数のグループで議論へ発展させ、描きアイデアへ形を与え、問題部分についてリサーチを行う。その上、見えない細部にまでこだわり製品を作り出し、失敗も含めた経験を15年以上のチームワークで学び共有する。

私はAppleの製品の素晴らしい点は、ハードウェアとOSの一貫性に象徴されると思っているが、Appleというチームそのものも常に一貫して過去のプロジェクトから今のプロジェクトそして未来のプロジェクトへと連続性を保ったまま進んでいっているということがよく分かるインタビューだった。

今後もこのブログでジョナサン・アイブについては追いかけていきたいが、さしあたって彼のスティーブ・ジョブズ追悼スピーチが字幕付きで見られる動画があったので、張り付けておく。こちらも楽しんでほしい。

また、このインタビューの前編Appleのジョナサン·アイブが語る「英国と自身とAppleのデザイン」をまだ読んでない場合は、ぜひこちらも一読していただきたい。

参考サイト:The Telegraph

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